トーヤの創作メモ

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【フリー素材】こころ 感想作文

どうも。トーヤです。

こころ (新潮文庫)

今回は「こころ」感想文です。フリー素材なのでご自由にお使い下さい。改変自由、クレジットは不要です。
新しくダウンロードしたフォントの使い心地を確かめるのとかに向いてると思います。

 

こころ 感想作文

Kがなぜ死を選んだのか。それは、「自己矛盾に耐えきれなかったから」だと思います。

上野公園での散歩中、「私」に、「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と突かれてからのKは異常です。お嬢さんの話にも黙りこみ、深夜に戸を開け、近頃は熟睡できるかと聞くようになります。自殺した夜、「私」の部屋の襖は『この前と同じくらい』開いていたとあります。これより、上野の晩Kが襖を開いたのは、「私」が寝入ってから自殺しようとしたからだと思います。自己矛盾を突かれたKの「覚悟ならないこともない」とは、死の覚悟だったのではないでしょうか。

Kは「果断に富んだ性格」「こうと決めたら一人でずんずん進んでゆくだけの度胸もあり勇気もある」とまで『私』に評されており、道のためなら全てを犠牲にする、として勉学に励み続けてきた男です。彼のストイックで真面目な性格は繰り返し述べられてきました。自己矛盾を消すため道に殉ずるのは不思議ではありません。

「お嬢さんへの恋を苦にして自殺」は落ち着いて祝意を述べていること、「友人の裏切りへの失望」は遺書の名を「私」宛にして簡潔ながらも礼を述べていたことから、理由としては弱いと考えました。

よって、Kが死んだのは「自己矛盾に耐えきれなかったから」と結論付けました。

 

おまけ:国語が好きになるバトル漫画

孤児院出身の青年・中島敦が、芥川龍之介樋口一葉と異能バトルを繰り広げる漫画をご紹介〜。
文豪ストレイドッグス

 


■あらすじ
孤児院出身の中島敦は、行き倒れかけているところに太宰治国木田独歩に遭遇。

彼らは、荒事専門の探偵社『武装探偵社』の社員だった。
ともに猛虎出没事件を解決した後、中島は武装探偵社に入社。

芥川龍之介森鴎外属するポートマフィア、フィッツジェラルド属する『組合』、果てはアガサ・クリスティドストエフスキー達と死闘を繰り広げる。

 

人生万事塞翁が虎


文豪がキャラクター化されて、各作品をモチーフにした異能力でアツいバトルを繰り広げる作品。
太宰治なら『人間失格』、与謝野晶子なら『君死にたまふこと勿れ』……。

作品と文豪を関連付けて覚えられ、近代文学得意になること間違いなし。

 

文豪ストレイドッグス 2018年 カレンダー 壁掛け CL-819

文豪ストレイドッグス 2018年 カレンダー 壁掛け CL-819

 
文豪ストレイドッグス 公式国語便覧

文豪ストレイドッグス 公式国語便覧

 

アニメ化もされてるので、漫画が取っ付きにくい人はぜひそっちから!


それでは、トーヤでした。

 

トーヤと個人サークルについての説明

こんにちは!新年になりました。改めて自己紹介をさせて頂きます!

 

プロフィール

藤原トーヤ。東夜などの名前を使うこともあります。島根県の田舎出身。

創作同人、個人ブログ運営、イラスト依頼受付を行っています。

 

創作同人について

個人サークル名は『トー屋』。創作小説・漫画、関連グッズ中心。
【通販】トー屋 - BOOTH(同人誌通販・ダウンロード)

  • 稀シリーズ

2016年から始めた世界観共有作品群。統一した世界観・設定を用い、異なった切り口の漫画・小説を制作する同人プロジェクト。

【広報】稀シリーズ 広報サイト

【キャラクター一覧】とーやさん / うちのこまとめ

【世界観設定wiki稀シリーズ/ホーム(とーやさんのWiki) / うちのこまとめ

 

投稿サイトリンク

「東夜@創作」のプロフィール [pixiv]

pixivメインに活動中。

以下はサブ投稿先として利用させて頂いています。それぞれ使いやすいサイトで見ていただければ……!

東夜(小説家になろう)

東夜(@eastohya) - カクヨム

東夜さんの作品一覧 - ニコニコ静画 (マンガ)

東夜のWebコンテンツ | アルファポリス - 電網浮遊都市 -

東夜さんの作った作品ページ - 占い・小説 / 無料

 

【創作小説】窓際ヒーローズ1-3

最初の話はこちら

窓際ヒーローズ 1-3

 冬は早朝がもっともよいとか、昔古典文学好きの伯父がほざいていた。しかし雪や霜とはいかないまでも朝は肌寒く、伯父の言葉は嘘にしか思えない。シュヒは機械いじりやコード書きさえできれば、どの季節のどの時間帯でも好きになれる。昔の人にはそういうものがなかったんだろう。
 本部の傷一つ無い白の壁にもたれかかり、シュヒはそんなことを考えていた。
 特別誂えのSSサイズジャンパーをやっと着込んだリロイは、わずかに目を伏せながら掌を差し出す。
 「せんぱいっ、お待たせしました! 手を……、繋ぎましょうっ!」
 「ああ、たしかに街道ではぐれたら危ないね」
 シュヒが手を差し出すと、リロイの顔がぱっと明るくなった。半年前、誘われるままリロイと行ったカフェで幼女誘拐犯と誤解され、留置所に入れられた経験から、後輩との外出時は注意が欠かせない。
 ちなみにレトルトにも赴任当初1度だけ飲みに誘われたことがあるがドタキャンされ、キレて通信飛ばしまくった結果は着信拒否! 二人はそれから一度も飲んだことはない。ああファッキンシット、クソ上司&クソ国家権力! こんないきさつから、自分は同僚との外出に向かない、とシュヒは思っている。

 国務警察本部はセンター区域高階層にある。二人はスカイロードを経由して、手近なジャンクフードのチェーン店に入った。朝も早いからか店内の客はまばら。リロイがクラムチャウダーとパン、シュヒがサンドイッチをそれぞれ買ってテーブルについた。24時間自動営業! の文言を見て、シュヒが短くうめく。
 「僕の身体は24時間営業非対応だよ、ううう消化器が辛い……最近ちょっと寝ただけじゃ疲労が回復しなくて……老化を感じる……」
 「ちゃんと食べてますか? センパイのことですから、一週間毎食ぶっ続けポテチとかやらないでくださいね」
 「お、それは僕の先週のメニューだね!」
 やったんですね……とリロイが半眼になった。一度ハマったものからはなかなか抜け出せないのはシュヒの性だった。
 まだ湯気を立ち上らすクラムチャウダーに口をつけ、リロイは翠の瞳にシュヒを映す。
 顎から首筋までの引き締まったライン。逆光の中でも目立つ、琥珀のように鮮やかな、瞳の黄金色。この瞳が、声が、紡がれる言葉が、ああ……まぶしい。眩しいなぁ。リロイは思わず目を細める。
 シュヒを前にしたリロイは、噴水のわずかなせせらぎや雲の合間から漏れ出る光、北風や自分の足音さえいとしく思える。理性もフィロソフィーもすべてふっ飛ばすこの幸福を、リロイが人生で体験したことのないこのしあわせを、先人たちは愛と呼んだ。
 ふと、彼女は口を開く。
 「センパイ」
 多幸のぬるま湯が注ぎ込まれたのだろう、彼女の胸はきゅうっと締め付けられた。リロイはシュヒを見つめ、そっと微笑んだ。緩く合わさった唇から、
 「……ボク、センパイがだいすきです」
 シュヒは迷うことなく破顔する。相変わらず目は合わせない。
 「僕もリロイのこと好きだよ!」
 「ふえぇ!? あ、あのっ、それは、普通の好きですか? それとももっと重要な好き?」
 思わず彼女の手には力が入る。シュヒは眉を下げて、くしゃっと笑った。
 「うーん、誰かを愛おしいって思う気持ちに、重要だとか重要じゃないとかいう格付けってあるのかなぁ」
 灼けつくような気持ちを覚えつつ、彼女はクラムチャウダーの残りを一気に飲み干した。
 白髪の彼女の輪郭を脳裏でなぞり、リロイは、
 「それにしても、会ったこともない人の個人情報だけを残して、あとの記憶は綺麗さっぱり忘れる記憶喪失なんて……本当にありえるのでしょうか?」
 「記憶喪失のみについてはとりあえずの説明がつくと思う、発見時の様子から。怪我だけじゃなく撃たれてたみたいだから、ショックを受けたとか」
 シュヒはサンドイッチにかじりついた。もぐもぐ口を動かしていると、リロイが浮かない顔で切り出す。
 「でも、自分が何者かわからなくなるって、ちょっと怖いと思いませんか? ……いえ、もしかしたらボク達、自分が何者かなんて死ぬまでわからないのかもしれませんね。自分が何者なのか? 自分が生きる意味とは一体何か? という問いに自信を持って答えられる人など、世界にどれほどいるでしょう」
 リロイはいつになく沈痛な面持ちだったが、シュヒは意図を解せず、
 「僕は自分のこと、シュヒ=ロウだと思ってるよ?」
 「……はいっ! センパイはセンパイですね! やっぱりセンパイほどの人となると、世間からも求められ、人生の目標も明らかなのでしょう?」
 「買い被りだよ」
 シュヒは生気のない顔で返した。彼は神のように祭り上げられたり、人非人のように蔑まれたりするのが苦手だった。あとは犯罪者扱いも。
 「僕は自分が生まれてきた意味なんてまったくわからないし、いちいち求めてもきっとしょうがないと思うから、目の前の人を助けることや与えられた課題をこなすことに集中してるだけだよ。実績が積み上がってはじめて肩書きがもらえるように、生き続けてはじめて、生きる意味が見出だせるんじゃないかなと思うよ。ぼくはね」
 「なる、ほど」
 リロイはしかし、頷かない。
 「確かに、哲学者は未だ”真理”を規定できていませんし、人生かくあるべきという“希望”は誰からも示されません」
 いつだったかキャンパスで習った内容の受け売りで、
 「だからこそボク達自身が『どんな状況の誰を助けるべきか』『目の前の課題をどう処理すべきか』を決断しなければなりませんが、しかし、絶対的に普遍的な価値観など、果たして個人が探究しきれるでしょうか? 未来への決断あるいは判断基準が間違っていたら、ボク達は取り返しのつかない過去と未来を前にして、打ちひしがれることしかできない」
 自由の呪い。
 「そういった側面において、個人は無力です」
 ふぬう、と気の抜けた相槌をして、シュヒはサンドイッチを嚥下する。
 「個人でダメならほかの人を頼ればいいんじゃない?」
 「むー。それでは思考停止です」
 なんとなく話が噛み合っていない気がしたが、いつものことなのでリロイはスルーした。
 「気持ちは分かるよ、僕も若い頃は色々迷ってた。でもリロイ、何も恐れることはないよ。ひとつ年を取るたびに許せるものが増えていくから」
 「ひとつ年を取るたびにひとつ妥協を覚えていくなら、ボクは子どものままでいいです」
 「ううん、僕にも絶対に妥協できないものはあるよ」
 リロイはまだむず痒そうな顔をしていた。しかしシュヒが何か言う前に、眼前にパネルが展開された。
 映るレトルトは腕組みをして、
 『ブレインスキャンの結果が出た』
 同時に、シュヒの手元にパネルが展開された。並べられた数字を目で追って、彼女の言っていた「記憶喪失」が残念ながら本物であることを悟った。
 「いよいよまずいね」
 『口に出すまでもない。さっき国務警察長官に急ぎお伺いを立てて処遇が決定した。ここで言うのもなんだし、さっさと食事を終えて、医務室まで帰ってきてくれ。以上!』
 シュヒは上司の姿をぼんやり眺めていた。レトルトはとにかく仕事が早い。どちらかといえば天才型で専門分野特化のシュヒに対し、叩き上げのオールマイティな処理能力は新鮮で、毎度素直に感服する。
 レトルトのパネルが消えてから、リロイはシュヒの元に身を乗り出した。ちまっとした身体がテーブル越しに寄せられる。
 「聞いてませんでしたっ! センパイの譲れないことって、いったいなんなんです?」
 「機構都市に歯向かうこと」
 リロイは呆然と口を開いて、シュヒをまじまじと見つめた。
 「嘘ですよね?」
 「……そうだよね!」

 リロイとシュヒは、命じられたとおりに一時間ほど前に来たばかりの病室を再訪した。
 ツイヴェルンは身を起こし、ベッドテーブルに置かれた入院食を食んでいた。プラスチックのプレートの上には、マッシュポテトだけがわずかに残されている。どうやらぴんぴんしているらしい。シュヒはほっと胸をなでおろす。
 「ツイヴェルン、ここの食事は口に合うかい?」
 「りょうが少ない」
 シュヒの問いかけに無表情で応えるツイヴェルン。レトルトは頷き、口を開いた。
 「やっとうちの部下が来た。待たせてすまない、これから君の処置を報告する」
 ツイヴェルンは無言で首肯する。機構都市の大まかな方針などは説明済みなのだろう。
 「まず、ツイヴェルンを機構都市の準市民として認定する。今からここを出ることになるが、体調は平気か?」
 「問題ない。わたしは身体を鍛えている!」
 「銃創作ってた怪我人の言うセリフじゃない!! てか退院はっや! いいの!?」
 「わたしは身体を鍛えているから!」
 ツイヴェルンは誇らしそうに続ける。いくら機構都市の医療技術が世界最高峰といえど、鍛え抜かれただろう強靭な肉体が回復を助けたのは間違いなかった。
 「なるほどよかった。検査はもう一通り受けたろうし、問題はないな。それで、ここから出てからの処置だが――」
 リロイはシュヒの袖を掴んで、緊張の面持ちでレトルトを見上げる。

 「これから一週間の間、シュヒとツイヴェルンには同居してもらう」

 リロイが泡を吹いて卒倒した。

 「うそ嘘ウソっ、うそですよねっレトルトさん! うわ~んやっぱり神様なんていないんです、神は死んだんです!」
 そういう文脈じゃないだろ! シュヒは突っ込みを入れたかったが、小さな後輩は癇癪を起こしたように涙を溢れさせ、レトルトをぽかぽかと殴っている。ツイヴェルンは何を言うこともなく、じっとりふたりの様子を睨めていた。
 「リロイー、君の気持ちはわかるが、大人の世界には気持ちじゃどうにもできないことがたくさんあるんだよ!」
 「ボクはぜ~ったいそんなケース認めないですっ! センパイとおねーさんの同居なんてぜ~ったいイヤですっ!」
 「仕方ない、じゃあリロイが俺と同居することで手打ちにするか!」
 「それなんの解決にもなってませんよ!? シュヒさんじゃなきゃイヤです!」
 「じゃあこのスーパー博識イケメン上司がとっておきの策を教えてやろう! 世の中には通い妻という言葉があってだな」
 「アンタ今絶対リロイに変なこと吹き込んでるでしょ」
 そして追い込まれたシュヒを見てゲラゲラ笑う、この上司はそういう男だ。

 国務警察長官マイアとレトルトの話し合いはごくごく簡単なものだった。
 ツイヴェルンの正体が分からない以上、記憶を戻すまでは監視が必要。だが市民を乱暴に扱ったとなれば連邦を刺激しかねない。
 そのため準市民としての身分を与えて補佐課で保護、送還時に機構都市内での記憶を消去することで一致した。
 準市民身分では高階層にある家に立ち入れないためレトルトは不適。リロイは幼すぎる上留学生。選ばれたのはシュヒ=ロウでした。唯一記憶を宿すシュヒと接触することで記憶を戻すための刺激になれば、という思惑もあるのだろう。

 リロイはぷくっと頬を膨らませて、
 「この指示は部下のプライベートにまで踏み込んでいる上、センパイとおねーさんの意思をまるっきり無視していますっ! おねーさんも、いきなり男の人と同居なんてイヤですよね?」
 「わたしはかまわない」
 リロイが身体を硬直させる。
 「保持している記憶がシュヒ=ロウのものしかないいま、いちばん安心できる相手というの彼だ。わたしはシュヒ――シュヒ、さんとでよい」
 「むきゃー! おねーさんまで!」
 頭を抱えたリロイに向けて、ツイヴェルンが手招きする。素直にとことこ歩み寄ったリロイを、ツイヴェルンがそっと抱きしめた。
 「問題ない。あなたも一緒に住めばいい。あなた泣くの、わたし、かなしい」
 豊満な乳房が押し付けられ、リロイは真っ赤になって口をはぐはぐさせる。
 一方のシュヒは微妙な顔のままだった。リロイやレトルトと同居するとしても自信ないのに、ましてや会ったこともない子となんて……。ツイヴェルンに感づかれないようにパネルを叩き、レトルトにプライベートトークを送る。
 『無理ですレトルトさん! 僕の部屋貸すんで代わってくださいいいい!』
 『大丈夫だ、気張るなシュヒ。何かあったら俺に連絡すればいい、このスーパー有能イケメン上司がついてるぞ!』
 『アンタほんとすぐ調子に乗るね!? その自信どこから湧いてくんの!?』
 『はははお前にも分けてやりたいよ。シュヒ、同居中は穏便に探りを入れて、連邦の様子を引き出してくれ。あとはまあ、ツイヴェルンの話し方破綻し過ぎでわかりにくいから、適当に言葉を教えてやって?』
 『高度なコミュニケーション要求しないでください……無理ですよ、僕になんて』
 『できるできるもっとできるやればできるって!! さあ同志シュヒ君、苦境を乗り越えドMに目覚めるのだ!』
 『それは嫌だ!!』
 叫びを無視してパネルを消し、レトルトは未だぐずぐず泣くリロイと連れ立って病室を出ていった。どうやらもう退院(?)の支度を始めるらしい。
 シュヒは悶々とした気持ちを抱えながら、眼前の美少女を眺める。銃創を負っていた腹はきれいに完治しており、白い臍は傷一つない――って、白いへそ?
 「う、わああああああああああああ!!」
 ツイヴェルンは立ち上がって、入院服を脱いで上半身を晒していた。形のいい乳房、丸みのある肩が一糸まとわぬリアルでそこにある。お、おっぱい……!?
 「ツイヴェルンさん!? なんで脱ぐ!?」
 「だって、退院するならいつまでも病院着よくない。それともシュヒは嫌で見たないか?」
 「原始人かよ! いいい嫌ってわけじゃないけどあのですね節度ってものが!!」
 シュヒは顔を手で隠しつつ、一刻も早く退出しようと病室のドアを開いたが、うっかりリロイと鉢合わせしてしまった。この後輩は、なかなか出てこないシュヒを呼びに来たのだろう。シュヒは、穴があったら入った上で墓標を立ててほしい気分だった。
 ほのかに顔を赤くするシュヒと、裸体を晒しなぜか仁王立ちするツイヴェルン。リロイは清々しいまでの笑顔で二人を見比べ、唇を開いた。
 「神は死にました」
 リロイが泡を吹いて卒倒した。
 

 ツイヴェルンは、発見時に着ていた青のベアトップ、ミリタリーパンツをまとってどこか安心したようだった。「えっちなのはいけないと思います!」というリロイの抗議から、ベアトップの上から国務警察の白ジャンパーを羽織ることになったが。

 シュヒはまず、彼女に機構都市の案内をすることにした。
 まずはデリやモール。昼食を済ませてからは彼女の年頃が訪れそうな女性服の店を調べて紹介したが、なんともノリが悪く、次にホームセンターへ行ったところ、ツイヴェルンは目の色を変えた。
 これは何? としきりに質問するさまから、連邦にはない機械だろうかと目星をつける。機械いじりや工作はシュヒの得意分野なので、2人で頭を突き合わせて薀蓄を垂れ流すうち、気づいたら5時間が過ぎていた。シュヒは店員になまぬるい目で見られたが、実際あたまがおかしいのでしょうがない。

 最後にシュヒは、『屋上庭園』に彼女を連れて行くことにした。屋上庭園は街で最も大きなビルにあるアミューズメントパークで、遊園地と植物園を併設している。シュヒはここの展望台が大のお気に入りだった。
 平日だからか、屋上庭園近くの人通りは少なめだ。清潔感のあるエントランスホールを抜け、エレベーターでふたりは無言だった。
 「知らない人が120cm以内に侵入するとパーソナルスペースが侵害され、つい階数表示を見てしまう」、いつかのレトルトさんの言。シュヒがそんなことを思い返していたら、ツイヴェルンが声を掛けてきた。
 「私の配属は補佐課にある。ということは、やはり仕事は他の課仕事の余り、雑用?」
 ツイヴェルンはシュヒを見つめ、こてっと首をかしげる
 「ああ……『補佐課』の意味は、『他課の仕事の補佐』じゃなくて、『シュヒ=ロウの補佐をする課』って意味なんだよ」
 「シュヒさん、おむつが必要か?」
 「いやそういう意味じゃなくてね!? 基本は僕のタスク管理とか書類整理とか色々!」
 シュヒは冷や汗をかいた。そして、このままではシュヒが特別扱いされている意味がわからないだろうと付け加える。
 「僕は12歳でこの国に渡ったんだ。両親は技師で、その頃ちょうど機構都市で用いるサイバーインフラの設計に関わっててさ。技術に強いお前ならこういう職に向いてるだろう、ってお父さんに褒められて嬉しくなって、試しに一人で組んだら、うまくいっちゃったんだ。それからはいろいろと……生き物とか新システムとか」
 幼いながらにシュヒはいくつもの発明を重ね、科学分野ではいっぱしの地位を築き、神童だの天才再来だのと拍手喝采を受けた。彼の少年時代の栄光がいかに世界を前進させたかは、リロイはじめ未だ残る彼の信者が体現している。
 「この空間投影技術もそうだ、現行の機構都市の技術はほとんど僕が作ったといってもいい。その功績が認められたんだ」
 誇らしい話のはずが、シュヒは気まずそうな顔で、ところどころ濁した言い方だ。ツイヴェルンは単刀直入に、彼の横顔を見つめ切り出す。
 「なぜ国務警察の中にそな部署を作って、シュヒさんを雇っている? そな功績をあるならば、一般に考えて、シュヒさんの適任は研究者だと思う」
 シュヒの背中は微動だにしない。しばらく沈黙が続き、逡巡しつつ、やがて彼は重い口を開いた。

 「16歳の時、都市法を犯した」

 低く平坦な声音だった。ツイヴェルンははっとして息を呑む。
 「都市で、いや世間一般で禁忌とされている罪を犯した。けれど、僕は機構都市を作り上げた功労者の上、連邦対立下の技術開発競争では僕の力が必要になると思われて、政府も行政も僕を切れなかった。でも野放しにするわけにもいかないから、補佐課で監視されつつ働くことになった。僕はほんとは囚人なんだよ」
 罪を犯した奇才に与えられた罰は、『一生の飼い殺し』だった。例えるなら、補佐課のオフィスは刑務所で、仕事は刑務作業、レトルトは刑務官にあたる。
 完全な幸福を構成する三要素は、「財産」「人間関係」そして「自己実現」だという者がある。シュヒは人生の決定権を奪われたかわりに、今後一生上がらない薄給、昇進などないポスト、監視の上で暇を弄ぶ職務を与えられた。
 「シュヒ……さん」
 「僕は自分がなんのために生まれてきたかなんてわからないけど、まだここで誰かの力になりたいんだ。タスク管理も他人に頼るくらい一人じゃ何もできないし、皆を助けるつもりで作った機構都市は格差の激しいディストピアになっちゃったし、神様みたいに持て囃された後に罪人として謗られるし、もういっそ死んでしまいたいとも思う。でも僕はそれでも、世界を嫌いになれないんだ。この機構都市が内包する虚無主義に抗う――それだけは譲れないんだ」
 そこでツイヴェルンはやっと思い当たった。彼がずっと執着していた『人助け』は、与えられた監獄での唯一のやり甲斐だったのかもしれない。そうでなければ、瀕死で倒れている敵国の女など誰が救うものか。
 「シュヒさん、死ぬなど言うのよくない。命は尊い。ミミズ、オケラ、アメンボ、ダンゴムシ、そしてシュヒさんも懸命に命の炎を燃やしている」
 「今虫と同列に扱わなかった!?」
 ツイヴェルンは無視して続ける。
 「例えあなたが咎人だとしても、あなたはわたしの恩人だ。わたしはあなたをよく知らない、神とあつかうもないし、罪人として悪口もない」
 ツイヴェルンはシュヒの頬に手を添えた。

 「あなたはただの、シュヒ=ロウ。私の特別な人だ」

 隣に佇むツイヴェルンは、北風に髪を揺らし、足元に広がる街を眺めていた。
 「さっきシュヒ、機構都市をディストピアと言った。けど、やさしいあなたのつくった街が、優しくないわけがない。ほら、――」

 ツイヴェルンは目線を上げ、顔をほころばせた。

 「きれいだ」

 日は西に傾きかけていた。
 空は黄色、オレンジ、紫と艶やかなグラデーションを描いて二人を包み込んでいる。眼下に広がる広大な街に、ぽつぽつと営みの明かりが灯りはじめ、空を貫くようなひときわ高いビルさえも、慈愛のオレンジに塗り替えられていく。
 遠く喧騒。笑い声。バスのタイヤが路面とふれあう音。
 焼けるような夕焼けに照らされ、機構都市――シュヒの造った理想郷は、そこに住む人間を生かしながら、穏やかに夜を迎えようとしていた。

 「教えてほしい。この街のこと、あなたのこと。そうしたらきっと、わたしはわたしにたどり着けるようなきがする」
 「……そうだね、ツイヴェルン。なんだかありがとう」
 シュヒは、隣に立つツイヴェルンに微笑みかけた。そして彼女に向き直り、照れ笑いしながら右手を差し出す。

 「君が、『自分はツイヴェルンだ』と自信を持って言えるように、一緒に記憶を探そう」

 ツイヴェルンはその言葉に、凛とした笑みを作った。シュヒに向けて手を伸ばし、つなぐ。人の手のぬくもりを感じた瞬間、ひときわ激しい風が一閃吹き抜けていった。
 「……よろしくおねがいする!」

 「むうううううううううううううううう! 今この瞬間センパイとおねーさんが一緒にいると思うと、ボクのメンタルはもうぼろぼろですううううううううう!!」
 「まあ落ち着いてミルクでも飲めよ、な? カルシウム大事大事」
 ツイヴェルン同居が宣告されてからのリロイは落ち込みっぱなしで、さっきから作業机にガンガン頭を打ち付けている。レトルトは笑顔を顔に塗りたくって、デスクワークの片手間に慰めることしかできなかった。
 それよりもレトルトは、あの奇人部下がツイヴェルンとまともに接することができるかに気をもんでいた。シュヒ自身はピュアで人間嫌いではないが、扱いづらい性分を持っており、見知らぬ敵国市民とのコミュニケーションなど達成できるかどうか。
 とはいえ、部下の前で懊悩する上司など笑止!
 パネルを閉じ、あわれな部下の背中を軽く叩く。デスク脇にしゃがみこんで、涙に濡れる緑の瞳を覗き込んだ。
 「リロイ、二人の同居生活に終止符を打ちたいなら答えはひとつ! 彼女の記憶を復活させて連邦にお帰りいただくこと! 君はその手伝いをすればいいんだよ」
 「はっ、そのとおりですねレトルトさん。カヨイヅマにボクはなりますっ」
 柄にもなく、ちまっとガッツポーズを決めるリロイ。
 「一刻も早くあのおねーさんの記憶を取り戻してハッピーエンドでさようなら! ボクとシュヒさんがフォーリンラブですっ!」
 「おお、その意気だリロイ、俺は折れない部下が大好きだ! 休み明けの任務も頑張ろうな!」
 レトルトは純真に笑うリロイを見つめる。
 ――犯した罪を知ったとしても、この子はシュヒを好きなままでいられるだろうか?
 意地悪な考えが脳裏をかすめるが、さすがに口には出さなかった。


 帰り道、ふたりは夕食を買うべくマーケット街に入った。
 平日の午後だが、学校帰りらしい子どもが多く屋台に群がっている。林檎をたっぷり並べた屋台の青年は、シュヒの容貌を見留めるなり快活に声を上げた。
 「ニーハオ! コンニチワ! アニョハセヨ! お兄さん、試食していかない?」
 彼は、頭の中から適当に東アジアの挨拶を引き出しているようだった。シュヒは足を止めて曖昧な笑みを返し、勧められるままに切った林檎を口に含んだ。口内で溶ける赤。
 「甘いや。この林檎、いくらするの? 買っていこうかな」
 流暢な発音に、青年は一瞬だけ目を剥いたが、すぐに表情を戻した。
 青年のセールスを断りきれなかったのだろう。屋台から帰ってきたシュヒは、苦笑して袋いっぱいの林檎を抱えていた。ツイヴェルンの唇から、軽やかな声が漏れる。
 「シュヒさん、買うすぎてる!」
 「そうだね。こんなに沢山、一人じゃ食べきれないや」
 「りんごジャムにしたら?」
 シュヒは苦笑して肩をすくめ、料理は不得手だと断りを入れた。そして袋の中の林檎を一つ取り出して、ツイヴェルンに手渡した。
 「君の分もたんとあるよ」
 ツイヴェルンは虚を突かれた思いでほんの少しだけ彼を見つめ、そして林檎に目線を落とす。「君はここに居てもいいんだよ」。不器用なりに、そんなメッセージを受信した。
 どうやら私は歓迎されているらしい。蝋を塗ったような果実の手触りを感じながら、彼女は密やかな笑みを漏らした。林檎などよりずっとあまい喜びが、何ひとつのよすがもない胸中にじんわりと満ちた。
 「シュヒさん、笑顔、すてきだ」
 「え?」
 「わたしの記憶のなかにあるのは、険しい顔だけだった。笑う、うれしい」
 そういうツイヴェルンの頬も、また同じように緩んでいる。
 だがしかし、ツイヴェルンには唯一ひっかかるものがあった。
 「そういえば聞いていなかった。あなたの罪、とは?」
 「あはは」
 シュヒは乾いた笑いを漏らして黙り込む。

 「聞かないほうがいいと思うよ」

 夕焼けで逆光になったシュヒの笑顔は、生来の人相も相まって、善人には見えない。

ありがとうございました!

 

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pixiv版はこちら!

「窓際ヒーローズ1-1」/「東夜@創作」の小説 [pixiv]

 

 

【創作進捗】おやすみプンプン&思想的執筆

 書店で「おやすみプンプン」を3巻まで買ってきて、一気に読みました。実は友人にネタバレされて結末もうっすら知っているけれど、それでも続きが読みたくて仕方ないです。やっぱりプロって凄いですね。

 今わたしはプロットを練り直しています。創作って孤独な営みですよね。とっても楽しいです、でもあまりの拙さに不安になるんです。せっかく作るなら、少しでも面白いストーリーで輝かせてやりたい……。

 

自創作はエンターテインメントに振り切れていない気がします。

学生時代、わたしはリベラル思想に傾倒していて、今も(学生時代ほどではありませんが)その色に染まっているような気がするんです。

前作は親に虐待されている少年が復讐を遂げ、しかし罪の意識に耐えきれず、殺した友人に謝罪するはなしでした。これはいい感じにマッチしてたと思います。

死体はともだち(東夜) - カクヨム

 

おやすみプンプン」。1巻から3巻までは、主人公プンプンとヒロイン「愛子ちゃん」の微妙な距離感の物語。小学生だったプンプンは親の離婚を経験し、愛子ちゃんは親がカルト宗教にハマっていることで遠巻きにされ、二人は想いあいながらも近づけずにいます。なにか強く思想的なテーマを訴えかけているわけではないんですが、すごく引き込まれる。

 

もう思想的なものはあまり欲してないんですよね。読んだ人が救われるような物語を書きたい、という意思はまったく変わっていません。でも今回の作品は、読んだ人が「ストレスなく」読めるような話にしたいんです。エンタメを書きたいです。

わたしは、思想テーマなしに物語を書く方法を忘れてしまったような気がします……。それともこれも未熟さゆえでしょうか。

とりあえず、たかたが数万字書いた程度で「技術がどうの」とかほざいているのは情けないので、完結させます。

 

 

【創作小説】窓際ヒーローズ 1-2

前の話はこちら

窓際ヒーローズ 1-2

 「シュヒ君、俺はまた君の長所を知ってしまったよ! 君ってヒキガエルの真似がすっっっごく上手いんだな!」
 「これはアジアン・ドゲザです。僕は今、謝罪の意思を表している」
 頭を地面に付けて平伏し、シュヒが声を絞り出す。
 国務警察・補佐課のオフィスは、その名に反してかなり広い。壁の一面はガラス張りで、下に広がる都市中心部が一望できる。傍にはレトルトの大きめの執務机。少し離れた場所に、シュヒ達が使う作業机、隅には簡易シンクと冷蔵庫がぽつぽつと置かれている。
 そんなオフィスの中心で、シュヒはレトルトに向け全力で土下座していた。レトルトはぽつんと置かれた執務机の椅子に座って足を組み、その姿を見下ろしている。顔は笑っているものの、纏う雰囲気は硬かった。

 昨夜の任務中、シュヒはアパート内で瀕死の少女を見つけた。彼女は手負いのうえ、臍に国家管理ギミックを括りつけており、それは彼女の命を奪うという。
 シュヒは少女を守るべく、ギミックをネットワークから切断することにした。
 試みはなんなく成功した。シュヒはギミックを引き抜いて、やや離れた位置に放った。カランと乾いた音が響く。ほっと吐息をついた。
 しかし彼は、ギミックが「爆破のターゲットを目前の自分に切り替えたこと」までは気づかなかった。
 「よしっ……! これで任務完了だ!」
 ガッツポーズの直後、シュヒは爆発に巻き込まれて昏倒した。

 一方のレトルトは、独断的な部下のために顔色を変えて奔走するハメになる。しばらく待ってもシュヒが帰還せず、通信にさえ応答しない。郊外まで出向いたレトルトが、昏倒するシュヒの鼻先を蹴り上げたのは、それから間もなくのことだった。
 身元不明の純白少女は、レトルトのはからいで医務室にブチ込まれ、シュヒは証拠品として服やら何やらを採取された後シャワールームに押し込まれた。深夜だったのが、気づけば朝五時である。
 そしてオフィスに帰ると、珍しく不機嫌なレトルトが待ち受けており、シュヒはわけもわからず土下座で謝罪することになったのだ。

 寝不足でぼんやりしているシュヒに、レトルトが鋭い視線を投げた。スーツはよれ、燃えるような赤毛が乱れている。
 「もうドゲザは見飽きたよ、立ち上がってくれ。さてシュヒ君、良い知らせと悪い知らせがあるけど、どっちから聞きたいかな?」
 立ち上がったシュヒは、少しの間の後、悪い知らせで、とシュヒは呟いた。レトルトは口笛を吹いて、
 「なんてね、冗談だよ。本当は良い知らせしかないんだ」
 シュヒはほっとして脱力した。
 「驚かせないでよ! で、何? いい知らせって」

 「このままではきみはクビだ」
 「良い話要素ゼロ!」

 「ああいや、言い方が間違ってた! 勤務内容雇用形態はそのままで、基本給残業代その他もろもろがゼロに設定される。喜べ! 公僕の完全形態だ」
 「なお悪いわッ!」
 彼は半笑いのままわざとらしくため息を吐いて、癖の腕組みをした。
 「閑職のわりにこんな騒動続きじゃ、ペナルティがあるのも当然だろう。俺は許しても上が許さない」
 レトルトは真顔になって、シュヒを見やる。
 「まず、昨夜の騒動についての詳細を教えてくれ。時系列順に君の行動を説明してもらいたい」
 はい、とシュヒは言葉を切る。
 「深夜十二時ごろ、旧市街で血統書偽造事件の容疑者の身柄を確保。証拠品の捜索中、人間の生体反応を発見し、不審に思い確認に行ったんだ。屋上へ向かうドアの突き当りで彼女を発見し、止血と連邦市民管理装置の破壊を行った……以上」
 長々としたセリフを言い終えると、レトルトはシュヒにいくつか尋問した。なぜ、最初の発見時にレトルトたちに連絡しなかったのか、なぜ身元不明の彼女に関わったのか。それには、パニックで頭が回らなかったと釈明した。事実である。
 レトルトはしばらく険しい顔で黙り込んでいたが、おもむろに口を開いた。
 「お前さ、自分の命の重さ分かってないのか?」
 「は?」
 シュヒは間抜け面で応える。
 「真面目な話をしよう。今回の案件では暴力が絡まないと判断したからこそ、この任務に派遣したんだ。敵国市民なんて何が起こるか分からない、想定外の事があればすぐに連絡してもらいたかった。辞めてもいいとは言ったが、こんな独断専行を許可した覚えはないぞ!」
 レトルトがシュヒを無遠慮に覗き込む。短く鼻を鳴らして、
 「もし今後、昨夜の状況に遭遇したら、すぐに俺かリロイに連絡しろ。こっちもお前らの行動をしっかり見ておく」
 「……OK」
 やや目をそらしたまま、細い声で応えた。レトルトはフランクな表情に戻って、椅子に身体を投げ出す。
 「ところでシュヒ君、捜索用ロボットは持ち帰ったのか?」
 「……あっ!」
目を丸くして叫ぶと、レトルトは神妙な空気を振り払うように破顔した。
 「はぁ、これだからお前は! 全く専門外になるとからっきしだな、まあいい、旧市街支部に連絡して回収してもらおう。責任追及はこれにて終了!」
 「ありがとう!」
シュヒはぱあっと顔色を明るくした。そして、唐突に、
 「そういえば聞いて、明日はゼロジゲンゲートシステムの勉強会で講演があるんだ。先生役って初めてだよ!」
 さっきまでの叱責を全て忘れ去ったような晴れやかな笑み。空気が読めないのは毎度毎度のことだ、レトルトはわずかに尾を引く苛立ちを飲み込んだ。
 「へぇ、凄いじゃないか。講演のカンペ作ってやろうか?」
 「僕をなんだと思ってるんです!? 一応技術分野ではいっぱしなんで!」
 「でも補佐課の閑職じゃないか」
 「ははっ! それならレトルトさんだって閑職じゃん、左遷仲間!」
 「おっ、俺をキレさせたな? 来月の基本給が下がってても知らないぞ」
 「すいません」
 シュヒのアジアン・ドゲザが炸裂する!

 レトルトはご機嫌に戻ったらしい。彼は隅の冷蔵庫からミルクを取り出し、二つのマグにそれぞれ注いで瞬間加熱機にかけた。
 「ほい」
 「ども。あー、空腹感が凄いや」
 シュヒはぽっかり感覚のない腹を押さえながら、マグの片方を受け取る。空腹感はあるが、ぐったりして食欲が起きない。血圧が上昇して食欲を刺激する物質が分泌されて……徹夜にはいいことなし。うう、頭痛い。
 微妙な距離を置いて、シュヒの隣に座るレトルト。徹夜明けのためかどこかぐったりしていた。シュヒはウィー・アー・ザ・ワールドをハミングしながら、暇そうに足をふらふらさせている。そんな二人の元へ、遠くから可愛らしい足音が近づいてきた。
 「おっ、お嬢さんのお出ましだ」
ホットミルクを啜りつつ、レトルトが自動ドアに目をやった。一秒後、
 「うわーーーーん!! せーんーぱーいっ!」
 「はは、おはようリロイ!」
 自動ドアに突撃する勢いで現れたのは、セミロングの金髪をハーフアップにした小柄な少女だった。お堅い開襟シャツの下にミニスカートを合わせ、白い太腿が眩しい。シュヒは彼女の姿を見留め、呆然と、
 「リロイ? まだ五時だよ。就業時間よりずっと早くにどうして」
 「ボクが早出したなんてことはどうでもいいんです! センパイのこと、すーっごく、すーっごく、心配したんですよっ?」
 「ご、ごめんね……」
 リロイ、と呼ばれた彼女は、南国の海を思わせるような鮮やかな緑の瞳を潤ませる。シュヒは肩をすくめながら苦々しい表情を作った。――同僚が市街任務で身元不明の人間と遭遇して、上司の通信に応えないとあれば気がかりにはなるかもしれない、だがわざわざ出てくるほどのことか? 彼にはいまいち理解できていなかった。
 リロイは、レトルト・シュヒに次ぐ補佐課3人目のメンバーだ。遠く海洋国から来た留学生で、都市運営システムを学ぶべく補佐課に籍を置いている。彼女は、天才と称されるシュヒを無邪気に慕っていた。
 「けどシュヒさん、人命を救ったんですよ! 旧市街みたいな危険地帯で、パッと『助けよう!』って思えるのが凄いですよう。ボク、尊敬しちゃいます……!」
 子どもらしく大きな目をキラキラさせる彼女に、シュヒはへらへら曖昧な笑みを返す。リロイは先輩二人のちょうど真ん中に座り、シュヒに身を寄せた。頬を僅かに赤らめ、
 「せんぱい、……ひとくち、分けてくださいっ!」
 「え? でももう僕のコップ残り少ないし、自分のコップで飲みなよ」
 「……むうぅ。じゃあセンパイ、一段落したら朝ごはんにエッジバーガー行きましょうよう! センパイ待ってたら夜ご飯食べるの忘れちゃって、もうお腹ペコペコです~」
 「うん? 徹夜明けだから僕はいいや」
 空腹感はあるものの、今何か食べたら確実に胃もたれする。僕の胃腸は、弱いんだ!
 「……むーーっ!」
 リロイがぷくっと頬を膨らませて、それから脇でくすくす笑い始めたレトルトを「笑わないでくださいっ!」とぽかぽか殴った。シュヒはわけも分からず怪訝な顔を作った。この二人はたまに、彼には理解不能なやりとりをする。
 「そういえばレトルトさん、また報告書も始末書も提出させないんですか」
 「一回指導すれば完璧に覚えてくれるんだから必要ない」
 「むう、羨ましいです~。あっ、レトルトさん服直したほうがいいですよ? 派手に乱れてます」
 「そうかい? イケメンが台無しだな。後でシャワー浴びて着替えるわ」
 さっきからきょとんとしているシュヒが、何かに浸っているとでも考えたのだろう。レトルトが立ち上がった。
 「リロイにシュヒ、あの子の話を聞きに行こう! 意識が戻ったらしい」

 「怪我は見た目ほど酷くはなかったらしい。朦朧としていた意識も、何者かに投与された薬物の作用だったそうだ」
 「でも、機構都市の技術力にかかれば、ほとんどの怪我は数時間で治療できちゃいますよねえ。ね、シュヒさん☆」
 「え? うん……」
 シュヒは上の空で、雑な返事を返した。リロイがぷくっと頬をふくらます。
 医務室に来るのは初めてだ、とシュヒは思う。とにかく真っ白な天井に床に壁。国務警察本部はかなり巨大な建物なので、付属する医務室も当然巨大になる。大病院の病室フロアをそのまま持ってきたような広い廊下には、薬品の匂いが僅かに立ち込めていた。
 消音加工済の床を歩いていると、白衣を着た青年がレトルトを呼び止めた。表示されたステータスには、『研修中』の文字。チョコレート色の肌の研修医は、レトルトのステータスを見て、
 「補佐課! というと、あんたがあのシュヒ=ロウ!?」
 「いいや、あいにく彼は留守だ」
 レトルトがさらりと言い放つ。
 「ちぇ。いつか本物に会わせてくれよ~」
 唇を尖らせて去っていく青年に生返事を返し、レトルトはシュヒをからかう。
 「シュヒ君、ファンサービスはもっとしっかりやったほうがいいぞ」
 「勘弁してよ……」
 半眼になるシュヒの傍ら、白衣を着た中年女性が彼を二度見して通り過ぎて行った。
 「ああ! もう! 僕は見世物じゃないぞ!」

 少女は、廊下の突き当りの広い一人部屋を与えられていた。敵国市民という立場から、下手に扱うわけにもいかないのだろう。
 病室のドアが開いた瞬間、リロイがため息をついた。初めて顔を合わせたときとはまったく印象の違う、降ったばかりの雪を思わせる美少女がそこにいた。つやのある真っ白な髪、滑らかな真っ白な肌。彼女は三人を見て、僅かに身を竦ませる。レトルトがベッド脇に進み出て、
 「はじめまして、お嬢さん。そんなに怖がらないで。体調はもう大丈夫かい?」
少女は無表情のまま頷く。感情の読み取れない空色の目が、シュヒとリロイを注意深く刺した。
 「俺はレトルト、機構都市国務警察の人間だ。君からいくつか話を聞きたい。あなたのお名前は?」
 「……名前……つ……ツイヴェルン!」
 彼女、もといツイヴェルンは蒼の瞳を煌めかせて声を上げた。
 「君は連邦市民だね。現在連邦と合衆国はたがいに渡航禁止国になってるはずだが、君は何の目的で入国したんだ?」
 「しらない」
 即答に、レトルトは笑顔のまま固まった。冷や汗をだらだら流しているのがシュヒにすら感じ取れる。ペースを崩されつつも、
 「……ええと、答えたくないということかな? しかし、君は血塗れで発見されたんだ、人命の保護という観点からして、訊かないわけにはいかない」
 「しらない……しらない、わからない」
 「うーん。何か他に覚えていることはあるかな? こんな狭い病室じゃ息も詰まる。早く君を家族のもとに返してやりたいんだ」
 嘘だ、とリロイは思う。柔和に笑うこの男は、連邦市民である彼女から敵国の情報を引き出そうとしている。脳内の情報を読み取るブレインスキャンは一応プライバシー権の侵害とされるため、よほどまずい状況でないと使用できないからだ。
 そんなことも知らない彼女は、素直に頷いた。
 「知ってる……ひとつだけ、おぼえてる」
 「本当かい? よかった。何か手がかりになるといいんだけど――」
 「しゅひ、ろう」
 全員の動きが止まる。そういえば、あのアパートで彼女は僕の名前を呼んだ。ツイヴェルンが唇を開く。
 「シュヒ=ロウ。都市工科大学院卒業後より補佐課所属。東アジアの豪雪地帯出身、12歳時を合衆国へ渡る。家族構成は、両親で19歳の妹。12月28日生まれ28才。身長170cm59kg。国際禁止指定薬物『Idot』胎性中毒者。記憶力、聴覚、味覚、運動能力に異常なまでに長け、世間に天才も称される。しかし臆病で卑屈の性格、極端な社交性が低い。――どうか? 聞きたい、まだ?」
 文法は破綻しているものの、述べられたことはすべて事実だった。ぽかんと口を開けて固まるリロイ。ツイヴェルンは無表情で付け加えた。
 「あと、彼女いない歴イコール年齢」
 「その情報吹き込んだの誰だよ!!」
 シュヒが全力で突っ込むと、ツイヴェルンはさらに口を開く。
 「落ち込んだ夜には兎のぬいぐるみに泣きつく癖がある」
 「あばばばばばっばあば!! なんでそんなこと知ってるの!? 僕の部屋に監視カメラでも付けてるの!?」
 秘密をバラされ悶えるシュヒ。意外にもレトルトはサムズアップして、
 「大丈夫。俺はシュヒ=ロウ耐性あるから、今更その程度じゃ引かないぞ」
 「耐性!? 僕バイオハザード扱い!? ってか、僕の恋愛事情を共有してるあんたらの方がよっぽどドン引きだわ!」
 叫び疲れて涙目でぐったりするシュヒに、リロイが寄り添う。ほのかに頬を染めて、
 「落ち込んだ時にはボクを呼んでくれていいんですよ?」
 「……ありがとうリロイ! 僕はシュガーがいれば平気だよ!」
 シュガーはぬいぐるみの名前だ。
 『ぬいぐるみと眠る独身男性』はいいとしても、『12歳の少女を呼び出して一緒に寝る独身男性』となると社会的にヤバい。今度こそ禁固刑食らう……。
 「あ、おれも思い出した。シュヒ=ロウは犯罪者」
 「うるさいな! 犯罪者顔なだけだから!」
 追い打ちをかけるレトルトに、シュヒが怒声をあげた。

 その後、シュヒ達は彼女を問い詰めたが、やはり記憶は残っていないようだった。徹夜明けのハイなテンションがぐったり感に変わっていく。補佐課一行は廊下を歩きながら、
 「もしかしたら彼女、シュヒ君のストーカーだったのかもしれないね。君、良くも悪くも有名人だし、個人情報なんて調べれば調べるほど出てくるだろ。どこかでシュヒ君の功績を知って、会ったこともないのにすっかり惚れ込んで、はるばる遠い国からやって来たストーカー」
 「そんなこと、あり得るわけないじゃないですかッ!!」
 珍しく声を張ったのはリロイだった。シュヒが初恋、と称するリロイにとっては、面白くない話だろう。レトルトは苦笑で彼女をなだめた。
 「はぁ。それにしても、ツイヴェルンさんの処遇、どうするべきでしょうか? 補佐課預かりの業務で発生した問題ですし、後始末だけ他課に投げるわけにはいかないと思います」
 「う~ん、本人が記憶喪失って言ってるから、都市法に則っての送還もできないしね……」
 リロイの視線を受けたレトルトは、やれやれ、とぼやいた。
 「記憶喪失が虚言の可能性も捨てきれない、とりあえずブレインスキャンにかける。申請やら何やらで時間かかるから、君たちは先に飯食べてこい」
 「そんなことできないよ。僕が持ち込んだ問題なのに」
 「お、ま、え、が居ると、ことが面倒になるんだよ!」
 「ぐぼぉ!!」
 レトルトの回し蹴りが炸裂し、シュヒは医務室から吹っ飛ばされて壁に激突した。ガクッとうなだれると同時に、医務室の自動ドアが閉まる。
 あとを追って出てきたリロイは、小さな身体をシュヒに押し付け、芝居がかったため息をついてみせた。そして気づかれないように耳を寄せて、
 「レトルトさん、夜通しシュヒさんのために上層階を駆け回ってました。さっきからシュヒさんのこと怒ってましたけど、嫌いにならないでくださいねっ?」
 「え」
 シュヒは、よれたスーツを着込んだレトルトの背中を思い出す。
 “ども。あー、空腹感が凄い……”――“もうお腹ペコペコです~”――ああああああ!! 部下に朝食を摂らせてやろうという、レトルトなりの気遣いだったのだろう。シュヒは一人で納得した。しかし、僕を蹴る必要はなくない?
 身を寄せるリロイの瞳が、わずかに濁る。
 「それにしても、なぜでしょうね。なぜあのおねーさんは、センパイのことを……」
 「う~ん」
 シュヒは科学分野ではいっぱしなので、技術命の機構都市ではそこそこの有名人だ。しかしそれ以外の知名度はさっぱりだし、ここ十年ほどはメディアの前に姿を表していない。シュガーのこととか、ニュースじゃ知りようもないしなあ。クソッ、よくも僕の秘密を……!
 リロイは上目遣いで、さみしそうにつぶやいた。
 「浮気しないでくださいね、シュヒさん……」
 「え? 好きな人がいないのにどうやって浮気するの?」
 「むーっ!」
 リロイはぷくっと頬を膨らませた。

 

ありがとうございました!

 

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「窓際ヒーローズ1-1」/「東夜@創作」の小説 [pixiv]